一話 奇妙な彼女

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青司はだぶだぶのシャツを脱いだ。 それから鏡に背を向ければ、右肩甲骨には黒い龍の刺青が見える。とぐろを巻き、細かな鱗を纏った龍は上へ昇ろうとしているようだった。 しかしその黒い線の縁の肌は、赤くミミズ腫れのようになっている。まるで今にも這い出してきそうなほど、立体的に浮き上がっているように見えた。 青司はポケットに入れっぱなしにしていたワセリン軟膏のチューブを左手の指先に絞りだし、鏡を見ながら塗りずらい位置にある刺青に塗り込んでいった。 これを彫ったのは、一週間前。 当時在学していた知り合いが久しぶりに電話をしてきて、「彫ってみねぇ」と聞いてきたのだ。 彫ったのはその知り合い。なかなか腕はいいらしいが、客集めに困っているという。 通常施術代六万のところをその半額にし、知り合いに宣伝するという条件で青司は受けた。 ズボンで手に残ったワセリン軟膏を拭き、青司はシャツを着る。 朝食を摂ろうと、居間へ向かった。
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