一話 奇妙な彼女

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黒のジャケットに黒のワークパンツ姿の青司は缶コーヒーを飲みながら自転車を走らせ、停学明けの爽やかな空の下、いつもの苛々ゲージが低いまま学へ向かっていた。 昨夜は雨が降ったらしく、水たまりがちらほらと残っている。間抜けな陽光が青司の服に吸い込まれて、その部分だけあたたかくなる。そんなぬくもりに絆されていると、青司は急に眉間に皺をよせた。 見えてきた公園から、柄の悪い五人組が現れる。青司の高校の三年生だ。 以前青司は部室をよこせと来たこの五人組と殴り合いになり、停学をくらっていたのだ。 元は、彼らが原因。 五人組はじろじろとこちらを見る。 青司は自転車を止めることなく、むしろペダルを勢いよく踏み込んで、彼らの目の前を通り様、水溜まりをそのままはねた。 「このやろう!」 五人組のリーダー格が怒鳴った。 青司はブレーキをかけ、自動販売機の横のゴミ箱に缶を捨てると、自転車を降りた。 「やんのか」 睨みをきかせ、威圧感を持ってリーダー格の三年生五嶌宗一に言う。拳を構える必要もないようだった。 五嶌らは怯み、青司は言い知れない優越感が満たされる感覚に、口角をつり上げた。 五嶌は唇を噛んで仲間に声をかけ、その場から去ろうとする。青司もフンと鼻をならし自転車に乗り込もうとした、その時だった。 「明津!」 走り去りながら、五嶌が叫んだ。 「このレイプ魔ァ!!!」 「あ゛ァ!?」 青司は自転車に跨がり、五嶌らを追いかけた。ちなみに青司にそんな前科はない。
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