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するり、と手から携帯が落ちたかと思うと、それは下を自転車で通りすがった男子生徒・明津青司の右肩を直撃する。
その時生徒は思った。
───まだ、画面保存してない!
人命よりデータ重視である。
「大丈夫だったー、携帯」
そして人命より携帯端末の心配である。
脚立を伝って降り、携帯を大事そうに拾い上げる白いパーカーのフードを被ったジャージ姿の生徒。
青司は、肩のちょうど骨張っている部分を擦り、そこを押さえながらその姿を睨みつけた。
「…謝れや」
先程のガセへの苛々も手伝って、不機嫌をそのままパーカー生徒へ向ける。青司は相手の胸ぐらを掴んだ。
「あー、まってまって、ギブギブ」
「!」
フードが取れ、青司は思わず相手を突き放した。
「女かよ…」
「サーセン、先輩。男が趣味っスか」
悪びれた様子もない三年生と見られる女子生徒は携帯画面をいじり、白いパーカーのポケットに捩じ込んだ。
「さっさと向こう行けガキ」
「いや、今私取材中なんで」
そう言って脚立をがたがた鳴らしながら昇る彼女は、あっ、と声を上げた。
「先輩、あそこのボクシング部の部室使ってるんスよね。先輩とっくの昔に廃部になったのに部員だと言い張る先輩って呼ばれてますよ。
あ、私は呼んでないんスけど」
「…で、だからなんだ。要件言え」
青司は面倒になってきた。元々女子と話すのは慣れていないことに加え、この手のマイペースな言動の女子の扱い方が分からなかった。
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