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結局―――時計は見ていなかったが―――成輝は5分ほど硬直していて、しびれをきらした深紅が再び話しかけてきた。
「信じねー、よな?」
「信じるも何も、言ってることの意味が分からないよ」
「そうだよなあ‥」
深紅はがしがしと頭をかき、俯いて はーっ、とため息をつく。成輝には見たことのない仕草だ。
今目の前にいる深紅は前の深紅とは明らかに違う。でも違和感を感じるからといって、「俺は俺じゃありません」だなんて言われて瞬時に飲み込める方が変だ。
成輝が行動する前に、深紅が動いた。
彼はま、いーや、と言って明るく笑う。
「今日から俺がここの深紅なわけだし、そんなことは知らなくていい。よろしくな、えーと‥名前なんだっけ?」
「成輝、だよ」
「ん、よろしくな、ナルキ」
いちいち突っ込みもいれてはいられない。なんで深紅が親友である自分の名前を知らないのか、なんで今更握手なんかしちゃっているのか。
それに、どうにも深紅と話している気になれなくて、先ほどの彼の言葉が頭の中でループしていた。
この日から、成輝と深紅の奇妙な学校生活がスタートした。
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