第一部

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 成輝の友人、名を乙深紅(キノト シンク)といった。 彼は真面目で成輝よりも精神が強く、芯を通す男だった。故に成輝は、友人というだけでなく彼を尊敬していた。それがこんな事態になってしまうだなんて。成輝としても信じがたいことだ。  ところで、深紅と成輝の共有する酷似した境遇とは、二人とも幼少期に両親を亡くしたことだ。 成輝の両親は事故死、深紅に至っては捨て子として孤児院で保護された。  二人とも同じ孤児院に入れられ、そこで出会った。どうしても一歩前に出られない成輝を、深紅がしっかりと引っ張っていく。頼りっぱなしと言われればそれまでだが、出会って以来そういう具合で気のおけない仲としてうまくやってきた、つい最近までは。  そんな間柄であったから余計に成輝は心配なのだ。自分にすら連絡をくれない深紅に、裏切りかもしれないとか、何かあったのかもしれないとか、無限に不安が広がる。
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