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「リン…お願い…」
そう言ってナルは目を閉じ、自分の胸の辺りを震える指で指差す
「さっきので…あいつはここに逃げ込んだの…」
胸の中に、紅黒い何か蠢くモノが見える。
「今ここに、あいつが隠れてる。でも、このままだと…あいつはまた…出て来る…出て来たら…今度こそリンを殺してしまう…私はもう…自分でこいつと死ぬ力もない…だから…だから…リンにお願いするしかない…」
ナルは声を絞り出す。
「私ごと…こいつを殺して…。お願い…私を…私のまま殺して!…私を…助けて…」
私にこんな事を頼む。しかも〈私が死なない為に自分を殺せ〉と言う。
自分の手で私を殺すのが辛い。なら、その逆も同じ事をナルは理解している。
私の手で自分を殺させる事、その辛さを。
それでも私に頼んだ。私に押し付ける事に自分の心を引き裂きながら、私に自分を撃てと。
彼女はこんなになっても必死に私の命を守ろうとしていた。
ナルの胸の中でナルの命を食い物の様に貪り蠢くヤツは、本当に寄生虫の様だ。
…腹が立つ。ヤツに、〈彼女〉に。
「ナル…キミの、願いは何?もう一度言って。」
ナルはニコリと笑って答える。
「殺して…。リンの事、思い出せただけで、私は幸せだから…これ以上リンと戦いたくない…はやく…助けて…」
とても苦しそうに息を吐きながら懇願する。助けてと。助けるとは何か。
私を想い、自分の命を投げ打つ少女を殺す事なのか?
苦痛に顔を歪める彼女を見て…私は決意する。彼女を〈助ける〉と。(嘘つきだね…)ぽつりと私は呟く。
「わかった。私がキミのお願い、叶えてあげるよ。」
弾を抜き、貫通弾を一発だけ込める。そしてナルに銃口を向けた。
「…いつまでそこに居座ってんの寄生虫。よっぽどそこは居心地いいのかしら?」
私はその寄生虫を、否、私にとってそれにも劣る低俗なカミサマを睨みつける。私に気圧されたかの様に蠢く速度が速くなる。
「いい加減に…消えなさい…!」
引き金を引く。撃鉄に弾かれた弾丸が、ナルの胸を貫く。
「ありがとう…リン…」
ナルの体から、翼が、尾が角が。黒いモノが祓われる様に消え、元のナルの姿へ戻っていく。
私は駆け寄り、その身体を抱き留める。
「終わったか…」
杖をつき、アーリィが後ろから歩いてきた。
「…この子の願いは叶えたよ。」
「そうか。」
アーリィは眼を閉じ、私に語りかける…。
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