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どうして笑えるのかと、私はゾッとした。
阿坂くんの母親は、彼が小学生の時に亡くなっている。その話は、私の学年なら誰しもが知っていることだった。
同級生の身内が亡くなったところで、人はたいして気に留めない。だが、彼の場合には、野次馬の興味を引く点があった。
阿坂くんの母親は、自宅のマンションの屋上から飛び下りて死んだ。阿坂くんの目の前で、それは行われたそうだ。そして、彼は母親から虐待を受けていたらしい。その当時には、息子が母親を殺したのではないかという噂が、まことしやかに囁かれていた。
「何が原因かは知らないけどさ、謝れば済むことでしょう」
「謝りたくない。私、悪くないもの」
「そうなんだ」
「あの人は私なんてどうでもいいのよ。だから、帰ってなんかあげない」
「そんなことを言っちゃいけない。『どうでもいい』なんてことないよ。あゆみさんのお母さんは、ちゃんとあゆみさんを愛してるはずだ」
「どうしてわかるのよ」
腹が立って、私は彼を睨み付けた。彼は微笑みを浮かべたまま、優しく言った。
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