-Prologue-

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 ──駆ける。  夜の闇。ざわめく木々。  吹き抜ける風。  その視界、感覚に映る全てを後ろへ追いやり、ただ眼前を逃げる黒い影を追い、  ──駆ける。  どれほど走ったか解らない。  だが、影を追う“蒼”は知っている。  終点は、近い。  闇と木々に覆われていた視界が、突如開けた。  今まで疾駆していた林道を抜け、その先にある臨海公園に出たのだ。  チェック、メイト。  正面は海。  黒い影は逃げ場を失い、その場に立ち尽くす。 「……追いついた」  〝蒼〟は疲れたそぶりも見せず、歩み寄る。  下がる、影。  夜を照らす街灯が、ふたつのシルエットを静かに映し出す。  〝黒い影〟──それはこの世界には存在しえないはずの生物だった。  外見は犬に似ている。だが、それを見て犬だという者はいないだろう。  節くれ立った四肢、異様なほど発達した牙、血のように赤い双眸。生物の常識を一切無視した醜悪な異形は、もはや魔獣としか表現できない。
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