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「ねぇ、おとーさんは?」
紀香と手を繋いだままの男の子が、紀香を見上げながら言った。
今は、夕方の5時近く。
いつもなら、被害者男性は帰宅しているのであろう。
「おかーさん、おとーさんは?」
スルリと紀香の手から男の子は離れ、弱々しい母親に近寄って同じことを聞いた。
被害者の妻は何も言わず、無言で男の子を自分の胸へ引き寄せた。
「おかーさん?」
ぎっちりと抱き締められた男の子は、母親の腕の中で、どうにか母親の顔を見ようと動く。
「…おかーさん?泣いてるのぉ?」
それっきり男の子が喋るだけ、母親は男の子の言葉にも、川野の質問にも、何一つ反応を示さなくなってしまった。
はあっと溜め息をついた宗吾は、助けを求めるように見てきた川野に
「帰る」
と合図し、異国の人間は被害者男性の家から出て行くこととなった。
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