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不幸に体質があると言ったのは誰だったか。
誰でもいいけど、そんなことを言っている奴よりもよっぽど隣を歩く彼女の方が不幸ではないかと、俺は思う。
「みゆ、こっち」
「え、きゃあっ!」
俺が彼女の腕を引いた瞬間、彼女のいた位置に何かが降ってきた。
それは辺りに白煙を振りまいたあとで正体を現す。
――黒板消しだ。
「すいませーんっ」
上から謝罪の声が聞こえたかと思うと、右手に黒板消しを装着した男が慌てた様子でいる。
「だいじょうぶですよー。
あゆくんがいるからー」
あわやそれが直撃しかけた俺の幼馴染である美幸は、のんびりした口調と緩慢な身振りで無事を伝えている。
肩口で緩いウェーブを描くクセッ毛を揺らし、見た目だけならネコにも似ているという美幸は、外見に反して運動神経の方はない。
だからというわけでもないが、俺がいないとよく怪我をする。
その証拠に振り上げる手の指先から、長い制服のブラウスから除く細い腕から、膝が少し見える長さのスカートからのぞく少し太めの足から、すべて傷や打ち身だらけだ。
顔や首も例に漏れず、美幸から生傷が絶えることはない。
「何が大丈夫だ」
「えー?」
俺が少しイラついた声で咎めると、美幸は目を細めたまま俺に笑顔を向けてくる。
「だって、あゆくん、ちゃんと守ってくれたじゃないー」
有難うと美幸は俺に笑いかけ、それから身体を寄せてくる。
俺が美幸を守るのは当たり前だ。
小さい頃からずっと美幸の不幸体質を見ていて、俺が守ってやらなきゃいつかこいつは死んでしまう。
だから、俺が守るとずっと昔に誓ったのだ。
俺が、どんな不幸からも守ると。
「アタシはあゆくんがいれば、全然大丈夫だよっ」
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