2#この手には何も残らず

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「あゆくん、アイスとけちゃうー」 「それはデザートだろ。  ほら、ジャム塗ってやるから」  ひとつめを食べ終わった美幸のために、今度はトーストの半分にマーガリン、半分にジャムを塗ったサンドイッチにして、美幸の口にいれる。 「んー、ふふふー」  幸せそうに食べる美幸に俺まで、つい口元が緩む。  ふごふごと何かを言っている美幸の頭に手をおいて撫でる。 「しゃべるのは後でいいから、今は食え」 「ん」  大きく美幸が頷いたのを見てから、俺もジャムサンドを作って、今度も一口で食べる。  コーヒーで流し込みながら、今日の予定を脳内で確認し。 「あゆくんー、たまにはアタシが食べさせてあげるー」  差し出されたスプーンについ口を開けた俺は、喉に冷たい塊を押し込まれて、我に返った。  その時には既に遅い。 「っ!  げほっ、ごほっ!」 「わー、あゆくん、大丈夫ー?」  焦っている様子なのに、焦ったようにみえない口調で心配してくれる美幸は、俺の顔をのぞき込みながら背中を叩いてくれる。  それはいいのだが。 「お、おい!」 「はい!」 「いくらなんでも一口で入るかっ!」 「えー?」  おかしいなーと首を傾げる美幸に何を言っても仕方ないとわかっているが。 「あゆくんなら、このぐらいへっちゃらでしょ?」  いくら俺でもカップアイスを一口で食べるのは無理だ。 「……みゆは何もしなくていいから」 「うーん」  不満そうに眉根を寄せる美幸に俺は少し照れながら、美幸の分のアイスを手に促した。 「ほら、早く食べないと遅刻するぞ」 「うーん」 「みゆ」 「あー」  まだ一日は始まったばかりなのだから、こんなことでめげていたら美幸の相手は務まらないのだから。  その後、からになった盆を持って出ようとした俺は、いきなり後ろから激突されて危うく盆をひっくり返すところだった。 「ごちそーさまでしたー、あゆくん」 「はいはい、ごちそうさま」  食事が空になるのはいいのだが、盆のなかの皿まで含めて空にしたら、俺が母さんにどやされるところだった。  それに、美幸がまた怪我をする。 「俺が戻るまで部屋で待ってろよ」 「はーい」
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