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いくら俺でもどうしても一緒にいられない時間がある。
それはトイレと風呂と、男女別の体育の時間。
特に体育の時間はあっちで美幸がどんな怪我をしているかと考えると、俺は平静ではいられない。
そわそわと落ち着かない時間を過ごし、授業が終わってすぐ、俺は着替もせずに駆けつけた。
「今日も仲いいねー。
美幸ちゃんなら、さっき保健室に行ったよ」
美幸と仲の良い女子に聞いて、礼もそこそこに俺は保健室へと駆け出した。
どんな怪我をしても笑っている美幸だから、ちょっと見ただけでは怪我の具合もわからない。
だから、自分で確かめるしかない。
早く、早く、と急く心で廊下を走る。
「こら、廊下は走るなーっ」
教師に注意されたけれど、軽く謝るだけで速度は緩めない。
何度か人にぶつかりかけたけれど、持ち前の運動神経で全部かわし、早く早くと保健室へと急ぐ。
保健室まではそれほどの距離じゃないのに、こういう時ほど長く感じる。
「みゆ、無事か!?」
保健室のドアを勢い良く開けた俺が目にしたのは、床に尻餅をついて呆然としている美幸と、見たことのない若い男の保険医だ。
保険医に腕をとられたまま呆然としている美幸が俺を見て、徐々に俺だと認識したあとで一度保険医を見上げる。
保険医は美幸に頷き、胡散臭い笑顔で俺に笑いかけた。
「君が歩君か。
いつも美幸が世話になってるそうだね」
美幸を美幸と、そう呼ぶのはうちの家族以外は数人の女子しかいない。
俺は怪訝に思いながらも大股で近寄り、美幸の隣に膝をついてから両腕で立たせ、しっかりと胸に抱きしめる。
「わ、あゆくんっ?」
「美幸の怪我、どうなんですか?」
「ああ、軽い打ち身だね」
「そうですか」
美幸を腕に抱きしめたまま、俺は深く頭を下げる。
「どうも、美幸がお世話になりました」
俺が言うと保険医は口端を上げて、気味の悪い作り笑いを見せる。
他の奴は気づかないかもしれないが、俺にはわかる作り笑いだ。
「またおいで、美幸」
「え、あ、はい!
――お兄ちゃんっ」
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