1418人が本棚に入れています
本棚に追加
月明かりだけがその場を照らす場にいるのは三人の男と一人の女。
しかし、三人の男は口を開く様子が全く見られなかった。
その状況に痺れを切らしたかのように彼女が口を開く。
「ねぇ、これからしばらく逢えないってのに何も言ってくれないの?
何も言わないならもう行っちゃうわよ?」
そして彼女は薄い桃色の頬をムスッと膨らました。
そんな様子を見た派手な着物を着ている男がようやく一言呟く。
「……気をつけろよ」
「気をつけるって言っても…
私これから敵のど真ん中に飛び込むのよ?」
「確かにそれもそうか」
「ほら、君に似合うだろうと思った
あちらででも着るといい」
長髪を風に靡かせている男が着物を彼女に手渡した。
「またすごく値の張りそうなものを…
ありがとう、大事に着るね
ねぇ、アンタは何もないの?」
そう言って、彼女は未だに一言も話さない男に視線を向ける。
その男はとても機嫌が悪そうにこちらを睨んでいた。
「だって……僕は君の傍に居られないのに、あいつらは君の傍に居られるなんて納得いかない
だいたい君が行くことに僕は賛成なんてしていないんだから」
あぁ、すぐ殺気出るんだから…
どうにかして隠せないのかしら
「大丈夫よ、たまには逢いに来るから
それに私はなれ合う為に行くわけじゃないのよ?」
「当たり前でしょ
なれ合ってなんかいたらすぐ連れ戻すよ」
「ねぇ、しつこい男は嫌われるって知ってる?」
「…じゃあ僕からはこれがせめてもの餞別」
チュッ
そう言って、男は彼女の額に自分の唇を押し付けた。
「すごく嬉しい餞別ありがとう、じゃあ行くね」
「いつでも帰ってこい」
「行儀良くするんだよ」
「男に近付かないでね」
最後の言葉に対して、彼女は苦笑しながら言葉を返す。
「それは無理
だって私がこれから行くのは“新撰組“なのよ」
彼女はひらりと手を振ると、彼等に背を向けて脚を進めた。
「夜が明ける前に着くようにしなくちゃ」
薄暗い道を歩き続ける女が一人あり。
.
最初のコメントを投稿しよう!