一服

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「最期に……一服させてくれんか?」  井草の薫る室内に、一筋の紫煙が立ち上る。  幾分薄くなった頭髪は色素が抜け、痩けた頬は若かりし頃の面影を残してはいない。  しかし、永く酒も煙草も禁じられていたためか、その表情は愉悦に浸っているように見える。 「あれを看取って二年か。散々好き勝手にやったのに、随分と長く生きちまった。何故俺より先にあれが逝ったのか……」  言いながら微笑む男の目には、涙が浮かんでいる。  周りを取り囲む、男の子供達は、亡き妻に向ける懺悔とも取れる言葉を、神妙な面持ちで聴いていた。  口角をきつく結び、いつも怒鳴ってばかりいた父。その父からこんな言葉が紡がれるとは夢にも思わなかったのだ。  そして、その姿から最期が近いであろう事を読み取る。  涙を流してはならない。  最期は笑顔で母の所へ送ってやろう。  涙を流してはならない。  せめて、父が逝くまでは。  愛する我が子に見守られながら、男は紫煙を大きく吸い込み肺に溜めた。  吐き出しながら子供達の顔を眺める。 「しかし、いい人生だった。なあ、母さん」  それを最期に男は瞳を閉じた。
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