・第一話・

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 メモ用紙をゆっくり受け取る。彼女は心配そうにこっちを見ていた。 「何かあったら、連絡する、かも。それと――あの、その、」 「はい?」 「宮本冬貴(ミヤモト トウキ)」 「え?」 「俺の名前……宮本冬貴って言うんだ、けど、その」  言った瞬間、 「冬貴さんですか! いいお名前ですねっ」  彼女は満面の笑顔だった。目の端にまだ少しだけ残る涙の残滓まで、輝いて見える。  うす暗い廃校舎を照らす太陽みたいだった、というのは言い過ぎかもしれないけど――  そう思えるくらいに彼女は素敵だった。 「えっと、ではこの辺で……本当にすいませんでしたっ! 何かありましたら遠慮なくご連絡下さい、ね?」  バカ丁寧なそのあいさつに俺は呆けてしまって、ってそうじゃない。 「帰るの!?」  慌てて言った。彼女はびくりと肩を震わせて向き直る。 「帰りますけど……何か?」 「何か、あーえっと、あ、その――」  何だ。俺何してる!? 何を言い出そうとしてる!? まさか、彼女を引き留めようっていうのか、俺。  困ったような微妙な顔をした彼女に向かって、 「りゆうっ!!」  声が裏返った。すぐに言い直す。 「ここにいた理由を! せめて、その、理由を――」  彼女、真綿は顔をしかめた。困ったなんてレベルではなく、明らかに不満を現にした表情だ。
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