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メモ用紙をゆっくり受け取る。彼女は心配そうにこっちを見ていた。
「何かあったら、連絡する、かも。それと――あの、その、」
「はい?」
「宮本冬貴(ミヤモト トウキ)」
「え?」
「俺の名前……宮本冬貴って言うんだ、けど、その」
言った瞬間、
「冬貴さんですか! いいお名前ですねっ」
彼女は満面の笑顔だった。目の端にまだ少しだけ残る涙の残滓まで、輝いて見える。
うす暗い廃校舎を照らす太陽みたいだった、というのは言い過ぎかもしれないけど――
そう思えるくらいに彼女は素敵だった。
「えっと、ではこの辺で……本当にすいませんでしたっ! 何かありましたら遠慮なくご連絡下さい、ね?」
バカ丁寧なそのあいさつに俺は呆けてしまって、ってそうじゃない。
「帰るの!?」
慌てて言った。彼女はびくりと肩を震わせて向き直る。
「帰りますけど……何か?」
「何か、あーえっと、あ、その――」
何だ。俺何してる!? 何を言い出そうとしてる!? まさか、彼女を引き留めようっていうのか、俺。
困ったような微妙な顔をした彼女に向かって、
「りゆうっ!!」
声が裏返った。すぐに言い直す。
「ここにいた理由を! せめて、その、理由を――」
彼女、真綿は顔をしかめた。困ったなんてレベルではなく、明らかに不満を現にした表情だ。
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