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やっぱりやめておいた方が良かった。
なぜここに来るまでそう提言しなかったのだろうと、俺は本気で後悔していた。
月光は雲に遮られたのか俺たちを照らさず、森は怒っているのかざわめきを止めない。
かろうじて虫の鳴く声がするが、そんなもんで恐怖を払えるほど俺は人間できてない。
率直に言おう。すげー怖い。
「ひぃ!?」
後ろから短い悲鳴。
「どうした!?」
と、勢いよく振り向いてみると、そこには思いきり地面に尻餅をついてる高音つかさがいた。
迷わず駆け寄って、抱え起こす。
「どうした、ケガでもしたか!?」
「う、ぅうるさい! 気安くあたしに触ってんじゃないわよっ」
とは言うものの、その声は体と一緒にガタガタ震えていた。
めちゃくちゃ怖いくせに強がってる姿が可愛いなと言おうとしたが、癪なのでやめた。
「どうかしましたかつかささん!?」
悲鳴を聞きつけたらしき久慈白真綿が全速力でこちらに駆けてくる。駆けてくるや否や、
「いまの悲鳴は何です!? 何か見たんですか見たんですね見ちゃったんですねえ!? いいないいなずるいな羨ましいな! 人魂? 浮遊霊? 地縛霊? それとも自殺してもなお現世をさ迷う悲しきサラリーマンですかあああ!?」
「……う、うるっさあ゛い゛!!」
キレるつかさ。美少女台無しである。
「少しはあたしの心配しろよっ!!」
もっともだな。俺はつかさに肩を貸してやって、一緒に立ち上がった。
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