・第一話・

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 姉さんと喧嘩した。  男と女という体格差などまるで無視した圧倒的な暴力の嵐。  力という力をねじ伏せられ、技という技を返され、それはもう思い出すだけで泣けてくるような類いの敗戦だった。  ……まあいつものことなんだけど。  俺こと宮本冬貴(ミヤモト トウキ)の実姉――名前を宮本遥(ミヤモト ハルカ)という。  外見は母さんと父さんの良い部分を全て継承したみたいに端麗で(その余った部分が弟の俺へと……)、高校、大学時代とミスコン第一位に輝いていた。  さらに運動はもちろん、勉強でも優秀としか言いようのない成績を残しているのだ。  パーフェクト超人なのである。  一昨年大学を卒業し、就職難と言われる時代の流れも無視して一流会社に内定をもらった。  今では期待の新人として多忙な毎日を送っている――はずだった。  はず、だった。はずというだけでそうではないのだ。姉さんがどんなに優秀であろうと、現実は思うように進んでなどいない。  その証拠に、弟である俺と喧嘩している。実家の、俺の部屋で、確かに俺たちは全力で喧嘩している。  要するに――遥はニートなのだった。
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