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空に立ち上る煙の柱。
降り続く大粒の雨。
地面に転がる瓦礫の山。
その瓦礫の中心に立ちすくむ少年が一人。
小さなその少年は特に何をするもなく、雨の振り返る空をただ、見上げていた。
瓦礫の中心から少し離れた所に現れたのは一人の男。
小さな少年とは対照的な身長を持つその男は静かにゆったりと、しかし確実に少年に近付いていく。
男は少年の前にくると、ゆっくりとその口を開いた。
「随分と…派手にやったな。―――“翡翠”を継ぐ者なだけはある」
少年は男に視線を向ける。
その顔には何の表情も浮かんでいない。
「腹が立つか?裏切られて」
少年は反応しなかった。
「悲しいか?全員死んでしまって」
降り続ける雨を背景に男の声だけが静かに響く。
「悔しいか?何もできなかった自分が」
今まで反応しなかった少年が、男のその言葉に肩を揺らす。
意志の籠もった双眸が男を捉えていた。
男は口元を緩め、少年に手を差し出す。
「―――来い。俺が鍛えてやる」
男がそう言うと同時に、止む気配のなかった滴が次第にその雨音を小さくしていく。
少年は躊躇う事無く男の手を握った。
それを確認し、男はゆっくりと一歩を踏み出した。
つられて歩き出した少年は首だけ振り返る。
灰色の空から顔を覗かせた太陽が辺り一面に日を照らす。
少年は意を決したように拳を握り、再び前を向く。
―――必ず、強くなってやる。
そう心に誓った少年の瞳は、彼の頭髪と共に―――翡翠色に輝いていた。
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