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――ザリッ
山肌が目立つ小さな崖に一つの影があった。
古びたローブのフードを深く被り、少しの荷物を持ったその影はどうやら旅人のようだ。
旅人は眼下に広がる小さな街を見下ろす。
旅人はフードから覗く口元を緩ませ、喜びを表に出した。
「やっと、着いた…!」
両腕を広げ、身体全体で風を感じる。
常人なら落ちてしまう恐怖からこのような危険なことは決してしないが、旅人は恐怖なんて微塵も感じさせないようにくるくるとその場で回りながら叫ぶ。
「今日は食べるぞー!!」
その雄叫びと共にギュルルルルルと旅人の腹から盛大な音が鳴った。
旅人の様子から察するに、暫くの間旅人は食事を取っていなかったようだ。
【気を付けないと、落ちるよ】
子供のようにはしゃぎ回る旅人に何者かが話し掛けた。
しかしその姿は見当たらない。
「大丈夫さぁ!今の俺なら何でもできる気がする!!」
【その自信は一体どこから来るのさ】
「俺自身?」
【…さぶっ】
「冗談だよ。それよりお前も出て来いよ!」
気持ちいいぞー、と続く言葉は最後まで言えなかった。
旅人が立っていた地面が崩れたのだ。
「えっ、…うお!?」
【ほら、言わんこっちゃ無い】
「うおぉぉぉぉぉぉぉ」
情けない声と共に旅人は崖の下へと落ちていったのだった。
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