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日も暮れ始め。お凛はパンパンと手を叩き注目を集める。
静かになった。しかし何も始まらない。
お凛の声が出ない。お苗が近づいて手を握る。
すっと立ち上がるお葉。
「皆様、本当にありがとうございます。忘れることのない時間を深く刻むことができました。私はこの町に生まれてよかった」
甚五郎を見る。
「お父っつあん……」
「よ、よせやい。もう、それは済ませただろうが」
お苗を見る。
「お苗ちゃん。幸せになっね」
「はい。姉さんも」
正面に向き直る。
「私はこの町も人も、それから翼屋に来てくれた人もみんな大好きです。とても幸せでした。ありがとうございました」
涙交じりの声と枯れた声。お葉、お葉と声が飛ぶ。
「今生の別れでもねえさ。また会える」
「でも、翼屋お葉はこれまでか」
「よけいなこと言うなこのやろう」
笑うお葉。
「得多屋のお葉もご贔屓に」
「旦那!俺たちはずっとお葉さんの味方だからな!」
「私たちを敵に回すと怖いよ!」
隣に立つ千之助。
「お葉が泣いたときはいつでもこの首を差し出します」
「よく言った!」
「首なんぞいらねえぞ!」
「末永く!」
「お幸せに!」
落涙。累々。
「ふわわわわ……わ!」
ペチ
興奮して取り乱すお苗の額を打つ。
お凛の頬にも滝の跡。そして共に笑顔。
翌日。お葉は嫁に行った。
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