17水茶屋姉妹の四・夫婦

5/6
前へ
/97ページ
次へ
 日も暮れ始め。お凛はパンパンと手を叩き注目を集める。  静かになった。しかし何も始まらない。  お凛の声が出ない。お苗が近づいて手を握る。  すっと立ち上がるお葉。 「皆様、本当にありがとうございます。忘れることのない時間を深く刻むことができました。私はこの町に生まれてよかった」  甚五郎を見る。 「お父っつあん……」 「よ、よせやい。もう、それは済ませただろうが」  お苗を見る。 「お苗ちゃん。幸せになっね」 「はい。姉さんも」  正面に向き直る。 「私はこの町も人も、それから翼屋に来てくれた人もみんな大好きです。とても幸せでした。ありがとうございました」  涙交じりの声と枯れた声。お葉、お葉と声が飛ぶ。 「今生の別れでもねえさ。また会える」 「でも、翼屋お葉はこれまでか」 「よけいなこと言うなこのやろう」  笑うお葉。 「得多屋のお葉もご贔屓に」 「旦那!俺たちはずっとお葉さんの味方だからな!」 「私たちを敵に回すと怖いよ!」  隣に立つ千之助。 「お葉が泣いたときはいつでもこの首を差し出します」 「よく言った!」 「首なんぞいらねえぞ!」 「末永く!」 「お幸せに!」  落涙。累々。 「ふわわわわ……わ!」  ペチ  興奮して取り乱すお苗の額を打つ。  お凛の頬にも滝の跡。そして共に笑顔。  翌日。お葉は嫁に行った。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

119人が本棚に入れています
本棚に追加