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夕餉のあと。ぼくは言いつけどおり、父さんの書斎に向かった。木製の扉をノックする。
「サイツか、入れ」
「失礼いたします」
言ってから、開けた扉を閉じ、直進する。適度な距離で足を止め、直立する。父は椅子に腰掛け、書類のたまったデスクに両肘を乗せている。手を組み、口元を隠している。
「明日だ」
明日。その言葉を聞いてああやっぱりか、とぼくは他人事のように考えていた。
「私は我慢したよ。いくら霊術の才がない貴様といえども、血を分けた我が息子だ。いつか、隠れた才が開花するやも知れぬ、と考えていた。貴様が努力を怠らず、ユーリ以上の鍛錬を積んでいるのも認めよう」
「……え」
父さんが、ぼくが今でも訓練をしていると知っていたことに驚いた。
「だが、それでは足りぬのだ。経過ではなく、私は結果を求めているのだ。貴様が、テリア家を名乗り続けることが許されるだけの結果を」
「どれくらいですか……?」
かすれた声でぼくは尋ねる。
「何がだ」
明日、ぼくが通う学園では使い魔契約がある。霊術の才がない人が、人外の魔獣と戦うためのすべを得る儀式。霊術の才がないぼくが、今まで放りだされずにここに住めたのは、その使い魔契約があるからだろう。
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