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「ホテル経営?」
テーブルに並べられた資料を手にとり、正悟は目を丸くする。
正面に座る未歩の父が笑顔で頷いた。
「趣味の範囲でね、細々とやってみようかと思うんだ」
「はぁ」
(趣味でホテル経営ですか…)
というツッコミは心の中にしまい込み、渡された資料に目を通す。
ここは都内の洒落たレストランである。
未歩の父が仕事の合間に正悟を昼食に誘う事はよくある事で、今日も落ち合ってイタリアンを堪能していた。
「ビジネスホテルではなくリゾートホテルなんですね」
資料から目を離さずに尋ねると父が楽しそうに頷いた。
「地味な観光地だからね、家族にも親しみやすい小さなホテルにしようかと思うんだ」
「避暑地ですから年配のご夫婦にも人気のスポットですもんね。旅館ではなく、ホテルなんですか?」
正悟は経営学についてはまったくの素人なので、それは世間話として聞いたつもりだった。
が、目の前の父はその質問に満足気に微笑んだ。
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