1.エンゲージ

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  「ホテル経営?」 テーブルに並べられた資料を手にとり、正悟は目を丸くする。 正面に座る未歩の父が笑顔で頷いた。 「趣味の範囲でね、細々とやってみようかと思うんだ」 「はぁ」 (趣味でホテル経営ですか…) というツッコミは心の中にしまい込み、渡された資料に目を通す。 ここは都内の洒落たレストランである。 未歩の父が仕事の合間に正悟を昼食に誘う事はよくある事で、今日も落ち合ってイタリアンを堪能していた。 「ビジネスホテルではなくリゾートホテルなんですね」 資料から目を離さずに尋ねると父が楽しそうに頷いた。 「地味な観光地だからね、家族にも親しみやすい小さなホテルにしようかと思うんだ」 「避暑地ですから年配のご夫婦にも人気のスポットですもんね。旅館ではなく、ホテルなんですか?」 正悟は経営学についてはまったくの素人なので、それは世間話として聞いたつもりだった。 が、目の前の父はその質問に満足気に微笑んだ。  
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