夢見る頃を過ぎても

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目を開けると、彼女は濃い紫色に染まった寒空の下、やっと這い上がってきた驚くほどの冷気にぶるりと震えた。 自分の身体を抱きしめ、ようやく帰路に着こうときびすを返した。 と、その先に、彼女を魅了してやまないものが彼女の瞳に映った。 彼女が追うべき後ろ姿が、抱きしめたくてたまらない後ろ姿が、黒く暗く、彼女より遥かに遠い所に立っていた。 彼女はそれが手に入らないと知っていて、唇をぎゅっと噛みしめた。 空は彼女を冷たい風で、早く帰るよう後ろから促す。 走り出したかった。 けれど足は雪にとられ、気持ちは徐々に萎え、彼女を魅了する後ろ姿はそんな彼女を突き放すかのようにだんだんと霞んでいく。 でも、それでもまだ、追いかけたくていた。 それは恋にもまさる、激しく熱いものである。 翌朝彼女が印刷した数百枚の世界は、また一冊のアルバムに閉じられ本棚に眠る。 昨夜の雪のようにまた舞い上がることを夢見て。 了
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