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視界を埋めるのは足下に転がる斬殺された夥しい数の屍と鮮血に染まる真っ赤な剣、そして自分の掌。
多分、掌だけじゃなく全身が赤く、紅く、朱く色づけられているのだろう。
嗅覚は皮肉にも正常に機能して此の血腥い戦場をリアルに感じさせてくれる。
胃液がせり上がる。喉に熱いものを感じるが無理矢理飲み下す。何時まで経っても此の感覚に慣れる日は来ないみたいだ。寧ろ、慣れてしまうのもどうかと思うが……
強化された聴覚が敵兵の雄叫びを捉えた。予想通り、敵の増援部隊が救援にやって来る。
すると一瞬、恐怖と言う名の一本の矢がこの身を撃ち抜く。
何に恐怖する? 死の恐怖に臆するか?
否。殺す事だ。俺は他人の命まで背負いたくなんかない。
そんな無駄としか思えない自問自答。既に数百、数千もの人を殺してきた俺には何の意味もない。
だったら考える必要もない。思考も感情も全て押し殺して、仮面を被る。
俺は偽りの英雄。民の希望と願いの虚像。
たとえ、偽物だろうと前へ進み、明日を示さなければならない責任がある、義務がある。
だからこそ俺は幾万もの屍を超えて進む。
前へ、前へと……
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