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俺の名は名倉 泰道。それなりに名の通った剣術家だった。
“だった”と言うのは職業が変わったからであり、別に腕が落ちた訳ではない。
今でこそ高校で教師をし、妻である叉那と平凡にして幸せな日々を送っている俺だが、こんな生活は昔の俺から見れば想像出来ないことだろう。
もし昔の俺が何の変化もなく年月(トシツキ)を経て来たならば、きっと今の俺は存在しない。
そう、変化があったんだ。美しく、憎たらしく、憧れであった彼女との出会いが昔の俺を変えた。
それは俺が16の時、そして一条雲雀が29のある夏の日のことだった。
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『勝者、名倉泰道』
暑い夏の日、とある大きな剣道場、響く俺の名。
この日は多くの剣術家が集まり、実力を発揮する、いわば大会の日であった。勝敗は降参か審判の判断によるもので、剣道の大会ではない。
俺は高校生の部で一年生ながら優勝し、当時無名であった“染景流(センケイリュウ)”の名を轟かせた。
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