越えたい人

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「俺は……居場所が欲しかった。いつも優秀な兄貴と比べられ、俺が勝っているのは剣術だけ……でも兄貴も小さな大会じゃ沢山優勝している。だから証明したかったんだ……名のある剣術家が集まるこの大会で優勝して、認めさせてやりたかったんだ」 そう話す俺はいつものひねくれた俺ではなく、コンプレックスに悩む1人の少年だった。 「でも、あなたは見事優勝しましたよ」 「……最後に欲が出た。せっかく親を招待したんだ、ただの優勝じゃなく、大人も含めて俺が一番凄い剣士だって証明したかったんだ。結局無様な姿を見せるだけになっちまったけど」 そう言って俺は辺りを見回す。既に俺と雲雀以外は誰もおらず、気を失ってから随分時間がかかったようだ。 すると雲雀はニッコリと笑い、こう言った。 「それなら大丈夫ですよ、私があなたを倒した時、真っ先にあなたに駆け寄ったのはあなたのご両親でしたから。特にお父様は私に向かって『うちの自慢の息子に何をする!!』と随分怒鳴ってらっしゃいましたが」 その言葉に、俺は自然と涙していた。そして俺は初めて、人の前で泣いた。 .
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