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若林は何も言わずにまた俯いた。
それから若林は黙ったままだったが、暫くすると傘から抜け出し、天を仰いでこう言った。
「この雨がさ、俺を洗い流してくれたら良いのにな。」
「.....若林?」
「醜い俺をさ、綺麗に洗い流してくれたら良いのになって。
醜い俺は春日には不釣り合いなんだよ。
だから、綺麗にしてくれたらなって。」
雨の雫が若林の頬を伝うから、涙が流れてるかどうかなんて分からないが、俺には若林が泣いているように思えた。
俺は傘を放り投げて、若林を抱き締めた。
「若林は醜くなんかないさ。
寧ろ、俺には勿体無いくらいに綺麗だよ。」
「.....俺は、お前の隣に居ちゃ駄目なんだよ。」
「.....若林。」
俺は掛ける言葉が見つからなかった。
いや、寧ろどんな言葉を投げ掛けても今の若林には届かないような、そんな気がしたのかもしれない。
どうしたら若林の闇を取り除けるのか、どうしたら若林を救うことが出来るのか、俺には見当もつかなかった。
俺はただ、若林を強く抱き締めることしか出来なかった。
fin.
2010.0610.
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