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「車から出ろ」
「え?」
「早く!」
少年は父に言われるままに車から急いで出た。
すると父はまたトランクから何かを出して車の下に潜り込んだ。
ガチャガチャと音が聞こえる。
しばらくして指を黒く染めて出てきた。
そして少年の手を掴んで引っ張って歩きだす。
父の手が自分の手を汚すのがもの凄く嫌だった。
少年はちらりと父の顔を見た。
なにやら深刻な顔をしている。
歩いて5分ほど坂を下った場所に小さな子供しか入れない穴があった。
「父さんは家に帰る。だがお前はこの穴に隠れてなさい」
「どうして?」
「理由は父さんが迎えにきてから言う。父さんが迎えにくるまでこの穴から絶対に出てきちゃダメだぞ」
そして父は小さな護身用の銃とナイフを息子に押しつけた。
「もしなにかあったらこの銃とナイフでこの前特訓したようにやっつけろよ。男だろ?」
少年は不安な目を父に向けたが父の顔には有無を言わせない真剣な眼差しがあった。
少年が渋々頷くと、父は少し強引に息子の頭を撫でて立ち去った。
それが少年が見た父の最期の姿だった─。
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