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少女は一度顔を近づけ、微笑み、地面に左手の平を付け、膝も付ける。
上目使いで男性を見上げる。
思わずどきりとしてしまうような視線。
しかし。
「ねぇ、仕上げはなにが良い?」
悪戯好きな子供のような問い。
それに笑顔。
「私は頭を冷やす、って意味と合わせて水が良いと思うんですよね。
でも」
少女が言い終わるか終わらないかの瞬間、男性の足元から凍っていく。
氷はゆっくりと男性の足から腰までを凍りづけにしていく。
「ぅぎゃぁぁあぁあぁ!!
なんだこれ!やめろ!やめてくれぇえぇぇ!!」
お世辞でも綺麗とは言えない叫び声。
「氷で冷やしてしまうのが一番かなと思いまして」
膝を付いていた少女がゆっくりと立ち上がる。
少女の方が小さいわけで、やはり見上げたままだが。
笑顔なのだが温かみなど微塵も感じさせない。
冷たい笑顔。
「だから、固まってください」
一歩下がり距離を取る。
腰まできた氷はまだゆっくりと登っている。
「大丈夫。殺しはしません。
あなたが今まで行った事を悔い、改めなさい。
氷の中で、ね」
氷は肩まで上がっており、腕から下と頭しか残っていない。
「はい、出来上がりです」
楽しそうにそう言って男性の横を通り過ぎる。
すると頭までを氷が覆った。
息はできないだろう。
「あまり長く閉じ込めていたら息ができないだろうからね。
短くしといてあげる」
右手を掲げて指を高らかと鳴らす。
同時に男性を覆った氷も砕け散る。
男性は膝から崩れ落ち、動かない。
だが小さくうめき声は聞こえる。
死んではいない。
凍傷も見られない。
「これに懲りたらもうしない事だね。
ばいば~い」
振り返ることなく声を掛け、少女はその場から歩み始めた。
月光で作られたライトを一人浴びながら闇に溶ける。
足音も次第に闇に溶けて行った。
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