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―――【記憶喪失】。
そんな状況においても、
その単語がさらりと浮かぶ、
冷静な自身の脳が恨めしかった。
後から親に聞いた話だと、
夕はここ数年の記憶がすっかり抜け落ちているとか。
原因は交通事故。
登校しなかった数日間は意識不明で入院していたとか。
そんな彼が私との意志疎通など、無論として覚えている訳もなく、それから、彼と学校でしか顔を会わせなくなった私は、あの日課を止めた。
そして、何だか関係もギクシャクしてしまい、晴れて、アイツが言う所の【孤高の女王様】に成り下がった訳だ。
…なんて、今更どうでも良い記憶なのかもしれない。
運命(ウンメイ)とは即ち、必然であり抗うことも、逃れることも出来ない出来事。
本人だって、それを承知で日々を過ごしているのだから、蚊帳の外の人間である私は受け入れるしかない。
…それで、良かったはずじゃない。
今の状況において、過ぎ去った昔の事を掘り返す自分の葛藤に納得がいかなかった。
何をこんなに焦る必要がある?
何をこんなに動揺している?
…わからない。
そんな考えが、
グルグル頭の中を巡った。
「…私らしくない」
小さく呟いた時、先ほどのように屋上で空を見上げていた。
空はどんよりとした雲に覆われていた。
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