夏祭り 混乱

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「ぁ、やっぱり居た」 ふわりとした聞きなれた声。 それは背後からの聞こえてくる。 振り返れば、優しく微笑む彼が居て、私の心はまたも揺らいだ。 「…何?」 あんなことを聞いた後だったから、複雑だったけど、確かに嬉しいのだと、私は自覚していた。 それなのに、口から出た言葉は 清々しい程までに冷たく、素っ気ないものだった。 「ちょっと、その…  水沢に話が…、あって…」 だんだんと語尾が小さくなって行く。 自信がないのか何なのか、 いつもとは違うその反応に少しだけ戸惑った。 「話?何か用?」 何か用? そう言ったのは、私に用があってほしいから。 夏祭りに… 誘ってもらいたかったから。 …なんて、女々しいのだろう。 「あの、今日の夏祭り…一緒に…」 「…いいわ」 彼の言葉を遮るように、 【夏祭り】という単語に反応して私は答えた。 先ほど言っていた大切な人には断られたのか、何故、私を誘うのか… そんな事は今、どうでも良かった。 考える余裕すらなかった。 ただ、何故だか分かりもしないのに焦っていた。 彼が…再び消えてしまいそうで。 再び、離れてしまいそうで。 女々しくて汚い考えだと 自分がどれだけ、みすぼらしいかも理解していた。 でも…それでも嬉しかった。 私は……… その後、私が許可したからか、 ありがとう、と笑顔で言ってくる夕を見つめることが出来なかった。
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