花火の夜に 想い添え

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鉄の錆びたような味が口に広がる。 血が流れているのだと、すぐにわかったが、噛み締めることを私は止めなかった。 ただ、悔しかったのだ、 【記憶喪失】という壁が。 抗えない、 過ぎ去ったはずの過去が。 悔し過ぎたのだ。 「戻らないの…わかってる…  そんなのっ…わかって…る…」 すぅーっと、冷たい何かが頬を伝う。 それが涙だと気付くのに、 そう時間はかからなかった。 「ヤダ…イヤなんだよぉ…」 いつもの【孤高の女王様】は 今、ここには居ない。 代わりにいるのは、一人の【非力な少女】。 壁は越えられないし、 彼が望まない限り、何も変わらない。 そんな現実が妬ましかった。 そんな自分を、 みっともない、と蔑む自分と、 どうしようもない、と言う自分。 それらが同時に存在していて 何が何だか、わからなかった。 ひたすらに嗚咽は続いた。 「夕哉…夕哉の…バカっ!」 ―――叫ぶ。 届かぬ想いと恋い焦がれる胸の奥の痛みに苦しみながら。 「私の…私のバカぁっ!!!」 少しでも、期待してしまう自分に嫌気をさしながら。 それでも好きという想いを拭えない不甲斐ない自分を蔑みながら。 あの日、何も知らず、 何も出来なかった自分自身を責めながら。
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