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「―――…ごめん」
そんな囁きが耳元に届いたのは。
ギュッと、身体を優しく締め付ける感触を感じたのは。
私が叫ぶのと、ほぼ同時だった。
ガンッ
刹那、何かが地面に叩きつけられるような音が聞こえたかと思えば、間近に感じる温もりを感じた。
「…ッ!」
思わず、驚く。
少しでも身動ぎをすれば、
触れてしまいそうなほど、近くに彼の顔がある。
状況を確認してしまえば、驚き過ぎて、涙はすっかり引っ込んでしまった。
彼が…夕哉が、
私を抱き締めていたのだ。
「………」
彼は何も言わない。
「………」
私は何も言えない。
シンとした静寂に交じる、彼と私の息遣いだけがやけに響き、現実感を私に伝える。
離してほしい等とは微塵も思わなかった。
逆にこのまま、時が止まってしまえば良いとさえ思えた。
けれど、いつまでもそうしている訳にはいかない。
彼には…今、
大切な人が居るのだから。
はぁ…と、微かに一息つけばいつものように冷静に戻る。
「…夕、離して」
冷たい言葉はいつものように。
今の私は【孤高の女王様】。
強く言い聞かせれば、脳は当たり前のように、いつも通り働く。
「イヤだ、離さない」
ひどく断定的に彼はそう言うとさらに力を込めて私を抱きしめた。
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