花火の夜に 想い添え

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「…理由もないのに抱かれるのは  不愉快よ、だから離して」 こんな嘘も悠々と吐けた。 さすが、【孤高の女王様】。 …なんて思うのは皮肉すぎる。 それでも私はそう言うしかない。 それも一種のプライドだ。 「でも…、離したくないんだ…」 弱々しい口調ながらも、 抱き止める腕は、手は決して弱くない。 むしろ、強いと言った方が正しい。 離したくない その一言にビクリと反応した私はまだ、【女王様】に成り切れてないということだろうか。 慌てて、辺りを見渡すと、彼が私から離れる理由を探した。 「ほ、ほらっ!  ジュース、投げ捨てるなんて  いけないわよっ!」 酷く焦りながら、 口にした言葉は苦し紛れ。 先ほど聞こえた音は、夕がジュース缶を投げ捨てた音だったのだ。 「…ゴメン」 そう言えば、 一瞬、夕の束縛が緩んだ。 離れた! そう思った瞬間だった。 …―――。 唇に、感触を感じたのは。 「……ぇ…」 私は固まった。 最早、抵抗は愚か、動くことさえ出来なかった。
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