01 夢見る魚

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山内先生というのは、私が所属している美術部の顧問で、まだ若い三十代の男の先生だ。 物静かな人で、笑うと、細縁の眼鏡の奥で、すっと目が細められた。横顔がきれいだと、初めて見たとき―――私が高校に入学して、美術部の見学に来たとき―――思った。そして、その左耳には、ちかりと光る銀色のピアスがあった。 私が先生を好きになるのに、そんなに時間は掛からなかった。 だけど、どこまで行っても相手は教師で、私はただの生徒なのだ。それ以上も、以下もない。生きている世界が違う。 叶わないと知っていて、それでも日々かさを増していく気持ち。 好きだと口に出すことは出来なくても、先生と同じ場所にピアスを開けることで、わずかだけれど近付けるような気が、した。
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