容疑者1、山下 悟

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  黒いスーツを着崩している男の後を、榊は目醒めたばかりで鉛の様に重たい身体を引き摺り、久し振りに使う自分の両足を使い、おぼつかない足取りで必死に追った。 そして、とある部屋へと入る。 男は近くに誰も居ないコトを、念入りに調べてから部屋の扉を閉め、ソファーにへと腰掛けた。 「まぁ座れよ。俺はアンタに頼みごとがあってきただけなんだ」 もともと緩めに縛っていたネクタイを更に緩めながら男は榊に向かいのソファーへと座るようにと促す。 煙草に火をつけ、煙りを吐き出す男を見ながら榊は小さな声で聞き返した。 「・・・頼みごと・・・ですか?」 「そうだ」 男は一度煙草の灰を灰皿にへと落とすとニカッと笑い、彼を見る。 「俺は『山下 悟(ヤマシタ サトル)』。アンタが関わってる1000年前の『あの事件』の再捜査を担当しているモンだ」 「刑事さん・・・ってコトですか?」 「まぁな」 山下と名乗ったその男は煙草の煙りを吐き出すと更に云った。 「俺は個人的に『あの事件』の犯人はアンタじゃないと思ってる」 「え?」 「何度も監視カメラの映像を見たんだが・・・アンタに不審な行動なんかなかった。でも、俺よりも上の連中はどうしてもアンタを犯人にしたいらしい。だから、俺は今からちょいと・・・いや、だいぶ命令違反をする。 <まぁ、アンタをコールドスリープから解放してる時点でもうしてるけど・・・>」 「・・・・・・」 「大丈夫。アンタにとっても悪い話じゃねぇさ」 不信感を露にする榊に、山下はそう云って、静かに笑った。 ☆
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