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私がそれを見つけたのは、ある昼下がりだった。
「…?」
その日は雨が降っていて、じめじめとしていて気持ちが悪い。
私は傘を片手にコンビニの袋を持ち歩いていた。すると、目にあるものが止まったのだ。
「…なんだ、あれ」
広い空き地のすみ、壊れかけたベンチの上に座っている何か。
人のようにも見えるが、頭には見慣れない耳のようなものがついている
私はゆっくりとそれに近づいていった。生憎雨の音がうるさくて私には気付いていないようだ。
「な、何してんの?濡れるよ?」
そういって声をかければ、大袈裟なほどにびくりと跳ね上がる
「ひっ、」
「っ」
「…っあ、ぅ…っ、僕、が」
「?」
「僕が、見えるんですか…っ、」
「は?」
あまりに意味の通じない質問に私は首をかしげた。
よく見ると、飾り物だと思っていた耳は本物のようで、まるで…
「き、狐…?」
「っ、僕が見えているんですねっ」
そういえば男?は飛び跳ねて立ち上がる。すると今まで座っていたため見えなかった黄色じみた尻尾がひょっこりと顔を出した
「っ」
「…あの、僕…ここがどこか分からなくて…見たことのないものばかりで」
「あ、あのさ…お前、人間なの?」
「いえ、違いますけど…」
あっさりと否定しやがったこいつ!!
私は現実味のない光景に若干着いていけずも、相手の頭上に傘をさしてやった。
「…じゃあ、何?」
「九尾といいます」
「っ、」
そ、そんなのマンガでしか見たことないぞっ?
「今はまだ…成長中ですから、こんな姿ですが」
「は、はあ…まあ、なんていうか頑張れよ」
関わらないほうがいい。そう解釈した私は傘だけ彼に預け踵を返した。
だが後ろからシャツを引っ張られ私の足は止まる
「う、」
「あの…僕、行くとこなくて」
「……」
「貴方には僕が見えるんですよね」
「い、いや私だけじゃない、と思う…」
「…」
急に黙るから、向き合って顔を覗き込んできた。
捨て犬のように円らな目で私を見上げてくるこの狐。
「………。…あああっもう、分かったよ!ついておいで、」
溜息を吐いて私は彼に手を差し出した。
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