花言葉

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 今日の秋那の様子は、付き合う前のそれとさほど変化していなかった。変に緊張もしていないようで、話す時も笑顔も、ずっと自然体のままだった。  まるで、昨日の出来事が白昼夢のように思える一瞬がある。やっと伝わったお互いの想いも、突然のキスも。  だから、俺は。 「秋那」 「何?レ……」  廊下に人通りがないことを抜け目なく確認し、俺は彼女を窓の方に押し付けて、そっと唇を重ねた。  今日、初めて秋那の香りを意識する。腹の辺りに手が添えられている。俺を押し返そうとするが、今の俺はテコでも動かないだろう。  舌で唇をこじ開けたいのを、どうにか我慢する。中学の時にはしなかったその行為は、やはり今ここで衝動的に体験したくはなかった。 「……悪い」  足音が聞こえた気がして、顔を離した。開口一番、後悔の言葉を投げ出すと、俯いた秋那のポニーテールが目の前で揺れて、鼻先をかすめそうになった。 「ビックリした」 「ごめん」 「謝んないでよ。嫌なわけじゃ、ないんだから」  目を見ないで淡々とそう言われても、実感が湧かない。けれど、秋那の頬は間違いなく色付いていて、そのことが俺に安心感と高揚感を与えてくれた。
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