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昼休みから最後の授業が終わった今まで、ずっと心が落ち着かない。まるで、着火した打ち上げ花火がいつまでも音沙汰ない時のような、焦燥感ともどかしさだ。
教室から半分以上クラスメートが出ていってからやっと、イスから腰を上げる。振り返ると秋那がこちらを見ていて、目が合うと微かに笑った。
「レイ、最後の授業寝かけてたでしょ?」
廊下を並んで歩きながら、呆れ口調にそう言われる。ぐうの音も出ない俺は、素直に認めるしかない。
「しっかりしてよね、私の彼氏さん」
すました風にそんなことを言われると、愛しさと嬉しさと生意気に思う気持ちとが溢れ出てきて、どんな大胆なことでもできそうな気になってしまう。
(ホント、ここでキスしてやろうか)
女子のかん高い笑い声や何語かもわからないくらいに雑多に入りくんだざわめきがまるごと波打つように治まり、部活動のアップの掛け声だけが遠い。そんな空間を俺の欲望一つで作り上げることができるのだと、一度考えてしまったら、段々と本当に実践したくなってしまいそうになる。
自分の中に在る、劇薬のように危なっかしいそれをどうにか制御して、校門を出ることができた。
辛気臭い表情を晒している空の下で、どちらともなく手を取った。それがあまりにスムーズすぎて、とても付き合って二日目とは思えないよな、なんて考えていたが、そんなはずはなかった。
実際のところ、俺たちは年を三つも隔てた向こうから一緒だったじゃないか。
空白のその期間は、ノーカウントだ。冷凍保存されていたことにしよう。
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