花言葉

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 俺よりずっと遠くを、目を細めて見ている秋那に音もなく惹き付けられる。風が吹くようにそっと秋那へと詰めよって、そのまま唇を重ねそうになった。そんな考えが本当に不意に浮かんでしまうあたり、空白の期間に俺の中にある我慢の感情が少しばかり欠如してしまっているみたいだ。  鞄からキーケースを取り出して、慣れた手つきで解錠していく。ガチャリと半分ほど扉を開けて、どうぞと勧めてきた。 「お邪魔します」  暖かい匂いに出迎えられて、初めて秋那の家の玄関に足を踏み入れる。電気の着いていない廊下は少し薄暗いが、進んでいった先のリビングからはドアのすりガラス越しに明かりが見えた。 「お母さん、買い物から返ってきたのかな。レイはまだ会ってなかったよね?」 「そういわれればそうだな」  秋那の母親とは、今までに顔を合わせたことがなかった。話づてには何度か耳にしたことがあったが、そこまでで情報は止まっていて、多分それは向こうも同じだろう。 「へへ、何だか楽しみだな」  脱いだローファーを揃えて、そっと俺の胸元を通り過ぎる。そのままリビングへと向かう秋那に続いた。  なぜだか、緊張はなかった。恋人の母親に会うとなると、押し潰されるようなプレッシャーを少しばかりは感じてもよさそうなのだが、どこか楽観的になれた。顔も性格も知らない秋那の母親だけれど、俺たちの関係をとやかく言われるなんてことは絶対にないと、断言することが出来た。  そんな根拠のない自信を抱えて、リビングを通る。メープルの色をしたフローリングが眩しい、どこか甘い香りが漂うリビングのソファーに座る後ろ姿が目に入った。
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