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靴下越しにも伝わるフローリングの冷たさを踏み締めながら案内された先に着いていくと、そこは秋那の部屋だった。全開にされたドアの向こうに、薄暗い彼女の部屋があった。彼女は腕だけを部屋の中にするりと潜り込ませて、パチリとスイッチを押すと、音もなく明かりが生まれた。
「昨日のうちに、ちゃんと片付けたんだから」
秋那に続いて部屋に足を踏み入れる。ふわりと、柔らかい香りがして(うまく形容出来ないけれど、あえて言うならば女の子らしい香りだ)、恋人の家に来たんだと今さらのように実感して、少しおかしくなった。
秋那の部屋の壁紙は、限りなく白に近い桃色だった。勉強机と小さなベッドとクローゼットとあまり本のない本棚とアルミのラックとその上に置かれた可愛らしいコンポとノートパソコンとテレビと簡易冷蔵庫と、ふわふわと毛の立った絨毯の上に、円形のテーブル。それぞれとフィーチャリングした秋那は代わる代わる容易に想像できた。いつか俺の部屋に秋那を招いた時も、彼女は同じことを想うのだろうか。
テーブルの前のフサフサに腰を降ろすと、秋那はベッドにちょこんと座る。閉じた足の向こうにある布切れが、今にも見えてしまいそうだ。
ふっと、秋那が笑ったのが見えた。俺を見下ろす形で、普段よりずっと大人っぽく、妖しい笑みを。
そう見えたのは、気のせいかもしれない。けれど、そんなことはどうでもよかった。
ベッドに近寄った俺は、秋那が目を閉じたのを合図に、そっと唇を近付けた。
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