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「……止めるの?」
唇と手をそっと浮かせると、泣きそうなほどに潤んだ瞳と声で訊いてくる。かつてない興奮の裏に、荒んだ平原に横たわっているような虚しさがあった。
「悪い。止まらなかった」
息を整えながら、横でまだ仰向けになっている秋那を見やる。衝動的に身体が引き寄せられそうになるのを、ぐっと我慢した。
「止めなくて、よかったのに」
プイとこちらから顔を背けて、独り言のように呟く。秋那が、覚悟を伴って望んだ先の光景は、他でもない俺が掻き消してしまったのだ。
「秋那、初めてだったろ?」
「……言ったっけ?」
「言ってない。でも、」
――絶対に、そうだと思った。
口にして初めて、なんて根拠のない自信なんだろうと笑いそうになる。こと秋那に関してここまで盲目的になれるくらい、俺は惚れていたんだということに、初めて気が付く。
結局、俺は理想と現実のギャップに気後れしてしまっただけなのだろう。俺たちの想いの果ての行いと、慶次のオカズであるアダルトビデオのあの行為が、言い逃れのしようもないくらいに同じものなのだということは、今だけは認められそうになかった。
結局は、そんなのただのきれいごとに過ぎないというのに。
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