花言葉

15/18
前へ
/112ページ
次へ
「……止めるの?」  唇と手をそっと浮かせると、泣きそうなほどに潤んだ瞳と声で訊いてくる。かつてない興奮の裏に、荒んだ平原に横たわっているような虚しさがあった。 「悪い。止まらなかった」  息を整えながら、横でまだ仰向けになっている秋那を見やる。衝動的に身体が引き寄せられそうになるのを、ぐっと我慢した。 「止めなくて、よかったのに」  プイとこちらから顔を背けて、独り言のように呟く。秋那が、覚悟を伴って望んだ先の光景は、他でもない俺が掻き消してしまったのだ。 「秋那、初めてだったろ?」 「……言ったっけ?」 「言ってない。でも、」  ――絶対に、そうだと思った。  口にして初めて、なんて根拠のない自信なんだろうと笑いそうになる。こと秋那に関してここまで盲目的になれるくらい、俺は惚れていたんだということに、初めて気が付く。  結局、俺は理想と現実のギャップに気後れしてしまっただけなのだろう。俺たちの想いの果ての行いと、慶次のオカズであるアダルトビデオのあの行為が、言い逃れのしようもないくらいに同じものなのだということは、今だけは認められそうになかった。  結局は、そんなのただのきれいごとに過ぎないというのに。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

310人が本棚に入れています
本棚に追加