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ベッドに沈んでいた秋那が身体を起こしたのは、それから十分ほど経ってからだった。その頃には頬も白くなっていて、ついさっきまでの不完全燃焼だった情熱は完全になりを潜めていた。
「今度さ、コスモス買いに行こうよ」
「コスモス?」
訊き返すと、うんと頷く。髪を纏めていたゴムを鮮やかに外し、ポニーテールを解放させた。普段お目にかかれない髪を下ろしたその姿を目に焼き付ける暇もなく、またぽすんとベッドに倒れこんでしまった。
「うん。お母さんの見てたら、私も欲しくなっちゃった。レイも、一緒に選んでよ」
ベッドから床に伸びた、Lの字を逆さにしたような秋那の足を眺めながら、チョコレートコスモスの横に並んでそよぐそれを思い描く。うん。いいんじゃないだろうか。
「ねえ、コスモスの花言葉、知ってる?」
例えばそれは、部屋の壁紙のトーンをほんの少しだけ桃色に近くしたような、気持ちのアンテナをこらしていないと気付かないくらいに些細な、ベクトルの変化。鴎の羽ばたきで生まれた風が、そっと波を揺らすような。
「一番ポピュラーな言葉なら」
俺も少しだけ、色を濃くしよう。サニーゴールドや、センセーションをイメージして、強く、柔らかく。
「……やっぱり、無理に最後までしなくて良かったな」
「もういいよ、そのことは。私も、」
「や、そういう意味じゃなくて。ほら、コスモスの……」
わざと途中で言葉を切ってやる。理解出来るまでの時間を与えてやると、彼女はカーッと頬を色付かせて、さっきまでの色に戻してしまった。
「もう、バカ」
紅潮している自分を見られたくないからか、うつ伏せになってしまう。布団に顔を埋めた状態で、足をバタつかせるものだから、とうとうパンツが見えてしまった。
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