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乙女の純情。
コスモスの花言葉の一つだ。口にするのも憚られるくらいにきれいで、壊れやすく、恥ずかしい。強引に行為を進めなくてよかったと、今にしてようやくまっとうな理由を得ることができた。
もっと、花言葉の意味を真に理解することができる日が来るはずだ。その時に、ようやく俺たちは小さく一歩先に進む。
三年前、というフレーズを使うのは、もうやめにしよう。俺が見ているのは、今ここにいる彼女なのだから。二人だけのタイムカプセルにそっとしまい、ずっと暖めていよう。そして、ほんのたまに開いてみよう。誰にも、見つからないように。
「俺も、買おうかな」
秋那が顔を上げる。詰め寄って、そっと頬にキスをした。
「コスモス?」
「うん。秋那と、同じやつ。お揃いのものが一つくらいあってもいいだろ?」
小学校の時にアサガオを枯らしてしまって以来植物という植物を育てたことなんてない。けれど、秋那と居れば、そんな俺もこうしてその気になれる。それは、実は結構素敵な出会いだったりするんじゃないだろうか。
「お揃いかぁ。いいかも」
そう言ったのは秋那だ。きっと彼女も、もう一歩の所で実態の欠片を掴めてはいない。確信の中に、想像や期待を膨らませている。
少しくらい、手探りであってもいい。その先に、きっと見えるものがあるはずだから。
大事なのは、希望なのだと思う。この人といると、幸せになれると思えるような、そんな希望。それがあれば、きっと乗り越えられる壁も高くなる。
なあ、お前も勿論わかってるよな?
ふと、目が合う。こっちの考えてることなんててんで理解出来ていないはずなのに、秋那はニッとはにかんだ。
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