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「ちょっと歩実…」
十五分ぐらいキャッチボールした頃、広志が突然歩実を呼んだ。
「何、お父さん?」
「ほらよっ」
「えっ?」
「後はお前がやれ。蒼空のマネージャーなんだろう?俺は釣りがある。それに疲れた」
「ちょっと、お父さん!」
歩実は真っ赤になって叫んだ。まさか広志が歩実にグローブを投げてくるとは思わなかったのだ。
「仕方がないお父さんね」
歩実は口では父を怒っていたが嬉しそうにグローブを左手にはめた。
「行くよ、歩実ちゃん」
そう言うと蒼空は優しいボールを歩実に投げた。
「バン」
「スパンっ」
二人は無言でキャッチボールを始めた。二人に会話はいらない。キャッチボールが会話の役目をしているのだから…
「バンっ」
「スパンっ」
ボールを受ける乾いた音が歩実は好きになった。
「歩実ちゃん、キャッチボール上手いね」
突然、蒼空は歩実に話し掛けてきた。
「うん、たまに亮のキャッチボールの相手をしていたからね」
歩実はそう言うとボールを蒼空に投げ返した。
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