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「入部テストで名前を言ったでしょう。あの時、分かったの。五年前のあの日、あなたはお母さんに蒼空って名前を呼ばれたでしょう?」
歩実はおかしそうに笑って言った。
「そんなこと覚えていたんだ」
歩実はそんなことで感心している蒼空がおかしかった。
「五年前のあの日、あたしにはしたいけど出来ないことがあったわ」
「何?」
蒼空が気になってすぐに質問してきた。
「あなたに慰めの言葉をかけること…」
歩実はゆっくり蒼空に言った。とうとう言えた、という気分だ。
「あなたに慰めの言葉をかけること…」
「慰めの言葉?なんで?」
「でも出来なかった。言葉が見つからなかったの。あたしが蒼空君だったらやっぱり変な同情の言葉なんかいらないと思うわ。でも、あの時何かあなたに言いたかったの」
「……」
「それから何年かあなたのことを考え続けたわ。でもじきに忘れちゃったけどね」
蒼空の返事を期待せずに歩実は話し出した。
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