第一章【隊長の、ヒミツ】

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「櫻庭副隊長ー! 相模隊長ー!! 聞こえたら返事をしてくださーい!」  彼女が必死になって考えた末に編み出した方法が、【叫びながら歩く】ことだった。  しかし、この降りしきる雨の中ではその声もかき消されてしまうということに彼女はまだ気づいていない。 「ダメだ、全然前が見えない……」  すると、彼女の瞳が動く影がしっかり捉える。 (人? こんなところに……子供みたい)  ユウイは迷わずその影に近寄っていく。 「ねぇ、君。どうしてこんなところにいるの!?」  ユウイは少しだけ怒ったような声でその影――、少年に問いかける。 「遊んでたら……迷っちゃって……ごめんなさいお姉さん……許してくれる?」  よく見ると服は破れ、足や腕に擦り傷や痛々しい切傷が見える。 「君、怪我してるじゃない!」  ちょっと待ってて、とユウイがポーチを漁るために少年に背を向けた瞬間だった。  ユウイの腹の辺りに鋭い痛みが走る。  その腹を貫通しているのは、ユウイ自身がこの一ヶ月幾度か見た、悪鬼と同じ触手。 「え……?」  状況が飲み込めないユウイを嘲笑うかのように、少年はその顔に似合わないげひた笑みを見せユウイの腹から触手を引き抜く。  降りしきる雨がユウイの血を流していく。少年はユウイの首を片手で持ち、彼女の体をずるずる引き摺りながらその場を去った。
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