31人が本棚に入れています
本棚に追加
『お待たせしました』
『やったー! お子様ランチだ!』
『ほらほらマー君。まずはちゃんと手を合わせていただきますでしょ』
隣のテーブルから聞こえてくるそんな母子の会話。
……羨ましい。俺もあんな風にお子様ランチを堪能できないものだろうか。
そんなことを考えながら俺の視線は自然とその子のほうへと向けられる。
「………………――!?」
そしてその子のお子様ランチが目に入った瞬間。俺は思わず固まってしまった。
『ママ見てー、この旗すっごくきれいな鳥さんがかいてあるー』
『あらホント。珍しいわねー』
無邪気にはしゃぐ子供によってチキンライスから抜き取られる旗。
銀色に所々ラメが入った和紙に中央に描かれた金色の鳳凰……。
見間違えるはずはない。あれはお子様ランチ名旗12本(ちなみにファランはそのうち7本まで所持)に数えられる『白銀鳳凰』! バカな! 俺もまだ持っていないあれがなぜこんな定食屋に……。
「あの~…お客様?」
「おいファラン、どうしたんだ? ハンバーグランチでいいのか?」
固まる俺に対して頭に?マークを浮かべながら尋ねてくるキリと店員。
だが今俺はそれどころではない。なんとか抑え込もうとしていたお子様ランチ欲求が一気にあふれだしてしまった。
いや、というか無理だ。最早あの旗を見てしまった以上俺にお子様ランチを食べないという選択肢はない。
「…………」
俺は再び店員のほうへ顔を向ける。
「当店では10歳未満もしくは65歳以上のお客様に限りお子様ランチをご提供させていただいております」
すると俺が口を開くよりも先に、まるで機先を制すかのように店員が先ほどの言葉を復唱してきた。
いや、というかこの店員はいったい何者なのだ。俺がここまで後手に回されるのは久方ぶりだぞ……。
最初のコメントを投稿しよう!