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―――きっかけは今朝のキリさんの一言からだった……。
「あれ? エルーまた袖がほつれてんじゃん」
「あ、本当ですね……」
「「………………」」
サッ!
ガッ!
キリさんがポーチに伸ばした左手を私はすかさず掴んで止めた。
ちなみに私たちは常に手をつないでいるからこれでキリさんの手は両方封じることに成功している。
「……何のマネだ? エルー……」
「……それはこっちの台詞じゃないですか? キリさん……」
お互い両手が触れ合った状態で笑顔で見詰め合う私とキリさん。
はたから見ればさも仲睦まじい恋人のようにも見えなくも無いが、若干浮き上がっている血管がそれを否定している。
「裁縫店息子をなめるなよ! こんなほつれくらい一瞬だぜ!?」
「それは分かってますよ! 問題はその後勝手につけるアップリケのほうですよ!
前のクマなんかとるのに3日もかかったんですよ!!」
忘れもしないあのいやらしい目のクマ……あれと3日も共に過ごすことを余儀なくされてしまった恨みは絶対に忘れない。
「あれのどこが嫌なんだよ!? いいじゃん! 可愛いじゃん!」
「そう思うのはキリさんだけですよ! どうしても直したいというならあのアップリケはつけないで下さい!」
「それは嫌だ!」
「子供ですか!?」
そんな風にお互い譲り合わない私とキリさん。
……いやでもこれどう見ても私が正しいですよね……?
そしてしばらく言い合いが続いた後、キリさんがある提案をした。
「よし! じゃあ分かった!!
そんなに言うならエルーが可愛いって思うアップリケを作ってやる! それならどうだ!!」
こちらを指差しながら自信満々に言い切るキリさん。
たしかに私にとって問題があるのはキリさんのセンスのみ……私が納得した物ならなんら問題ないとも言える……。
「……いいでしょう。それなら私も文句を言いませんよ。
……でも本当に可愛いのしか認めませんからね」
……それが始まりなのだ……。
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