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「ねぇ、愛してるなら私と死んで」
私はナイフを彼に向ける。
「無理」
なのに彼は表情すら変えない…なんでなの?
「君を愛してるけど、僕が死んだ後本当に君も死ぬか分からないし…逆でも同じ事が言えると思う」
ジッと私を見つめながら、彼は続けた。
「知ってる?車で海に飛び込むのが一番確実な心中らしいよ。逃げたくなっても逃げられないし……でも」
一旦言葉を区切り、にっこり笑う彼。
「僕たち、車も免許も持ってないじゃん。もし君がどうしても心中したいなら一生懸命お金稼いで免許とって、車…どうせならリムジンにでも乗って、子供とか孫に見送られて…結婚100周年記念にでも、心中しよ?」
玩具のナイフをポイッと捨てて、私は小さくため息をつく。
ああ、きっと一生この人には勝てない。
そう思った。
そして私は、きっと一生この人の傍に居るんだ。
そう思った。
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